『ピリピリしてるけど、やっぱり優しい――社内で交わす、言葉少なめの気づかい』
「ヒロさん、さっきの資料、まだ?」
「今、仕上げてるとこ」
「“とこ”じゃないの。午後イチの打ち合わせって言ったよね?」
マユミの声が、いつもより少しだけ鋭くて。
プリンターの音が、やけに大きく聞こえた。
それでも、怒ってるわけじゃないって、わかる。
今朝から、社内は立て込んでて、マユミはずっと走りっぱなしだった。
「……ごめん、今出すよ」
プリントを渡すと、マユミは一度だけ目を伏せて、それからふっと息を抜いた。
「ありがと。……お昼、あとで一緒に行く?」
「うん、行く」
言い方は強かったけど、最後の一言がちょっとだけ甘かった。
それで、十分だった。
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